福岡で見つけた“麗しき黒髪の乙女”の話 5

プロローグ

◯◯、朱肉は?これが先輩が私にかけた最後の言葉である。私が人事評価の面談から帰ってくると、先輩は挨拶も残さず退社していた。人生で初めて見つけた憧れの先輩と会社で過ごしたのは、わずか3ヶ月だった。

退社した憧れの先輩

連休明けは会社に行くのが嫌なのが普通だろうが、私は先輩に会えるのが楽しみだった。ところが、お盆休みの9連休から開けた月曜日、先輩は出社しなかった。そして次の日、少し遅れて出社したかと思ったら、先輩はメールでそっけない挨拶だけ残し退社した。私には一言も無かった。

ビックリだったが、仕事で色々と解決しなければいけないことを抱えていたので、落ち込んでいる余裕はなかった。それでも悲しい。何よりも、あんなに慕っていたのに、何も言わずに去ってしまったのが悲しい。私は人生で初めて見つけた憧れの先輩をわずか3ヶ月で失った。

福岡で出社した初日、青いスーツに白いシャツの先輩を初めて見た時は、あまりのオーラに驚いた。綺麗だとも思ったが、とにかく格好良かった。仕事ができそうで近付き難い雰囲気があった。それから3ヶ月。人生で初めて女性にどハマりし、デートに誘い損ねてもなお、先輩の背中を追いかけていた。

第一印象からは考えられないほど先輩と打ち解けた。しかし、考えてみれば私は先輩とほとんど話したことが無いし、コロナ禍のいま、先輩の素顔をちゃんと見たことすらなかった。私は先輩のことを知る前に、別れを迎えることになったのだ。

お盆に入る前の最後の日。先輩は「お盆は実家に帰るのか」と聞いてきた。以前、一緒にコーヒーショップに行けるのはいつか先輩に尋ねたら、お盆前まで休日出勤が続くと言っていたので、当然お盆は空けていた。ところが、「帰りません」と返信したのに無視。興味が無いなら聞いてくるなと言ってやりたいなどと考えていた。しかし先輩はもういない。

エピローグ

先輩が退社してから一時間弱。昼休憩でも取ろうと考えていたら、LINEに一件メッセージがあった。

「てことで、カフェいつでも行けるよ。平日の昼間でも笑。」